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海苔が危ない!

こんにちは、東海苔店 東です。

今、日本はかつてない海苔養殖の危機に瀕しています。

どういうこと?と思われる方も、なんとなく聞いたことがある方もいらっしゃるかな、と思いますが、
海苔の名産地である有明海で、海苔がこの数年で、一気に採れなくなりました。
(有明海は自他ともに認める日本一の海苔の産地)
本当にこの数年で!!
一気にきました・・・。

実は10年以上前から、海苔の水揚げ枚数は少しずつ減っていました。

「これ、海苔いつか採れなくなるかもね」という話は入札シーズンにぽつぽつ聞かれるくらい、
少しずつだったので、まさかこんなに一気に流れが来るとは・・・。


後述していますが、今年は兵庫の海苔が採れたため、2024年は盛り返しています!
その代わり、弊社が欲しかった有明産海苔は不作でした。
平成半ばの海苔の水揚げ枚数平均は93億枚に対し、令和に入ってからは59億枚です。

どうしてこんなに採れなくなってしまったのでしょうか。
原因は3つあります。

海苔が採れなくなった原因は色々ありますが、最も言われるのは気候変動。
そして温暖化などによってどんな影響があるかというと・・・。

その1. 雨が降らない

海苔だけでなく、昆布・ワカメ・牡蠣、など海の食べ物は、山から流れてくる栄養素(リン、亜鉛など)で育ちます。
山に降った雨が土(腐葉土)や断層を浸透して、栄養いっぱいの湧き水や地下水が川から海へ流れて、初めて自然の恩恵をうけることができます。
ところが、今までは初夏に梅雨、秋には台風などがきちんとあったのが、ここ数年は温暖化の影響により雨が降らない、降っても通り雨、もしくは災害級の豪雨に変わりました。
豪雨はいいんじゃないの?と思われるかもしれませんが、海苔的には意味がありません。
ゆっくりと時間をかけなければ栄養は届きにくいのです。(ダシと一緒?)
また、一気に海に流れ着いた雨水は淡水なので、むしろ栄養塩濃度を下げてしまう可能性も。
だから一気に降る雨には意味がないのです。

海苔が育つには、栄養がぐるぐる回る必要があるため、有明海・瀬戸内海・東北のリアス式海岸など、波が穏やかな湾状が適しています。

なので、同じ海でも日本海側は潮の流れが早すぎて、海苔の養殖には向いておりません。
ないこともないのですが、生産量は少ないです。

島根県十六島(うっぷるい)の「岩のり」はその一つです。

その2.海面温度が下がらない

ここ数年暑いではないですか・・・。
夏が長いし、梅雨もあるのかないのかだし、冬もあんまり雪が降らないし。
雪も一点集中型といえるような変な降り方をしていますね。

そんな暑くてばかりだとどうなるかというと・・・。

海が暖かい→赤潮プランクトン、その名もユーカンピア発生!

プランクトンって海産物の命「栄養塩」をね・・・食べるんですよ・・・根こそぎ・・・
雨にもですが、台風にも海面温度を下げたり、海の栄養素をかき混ぜてくれる役割があります。
海苔を含む生態系のことを考えると、毎年きちんと梅雨や台風は来て欲しいのですが・・・。

他にも、海面温度が高いことによりチヌ(クロダイ)が活発になります。
このチヌ(だけではなく他の鳥や魚もそうなのですが)、海苔網から海苔をつついて食べることがあります。
海苔網がまるで、バリカンで刈られたように海苔が消えることから「バリカン症」と呼ばれています。

バリカン症の海苔網

こちらに至ってはほぼやられています。


こちらが正常な海苔網

こう見ると全く違うのがおわかりでしょうか。


このバリカン症になる原因は様々なのですが、このチヌのように、温暖化により食害も出ているのが現状です。
現在はこのバリカン症から海苔を防ぐよう、たとえば鳥を血がづけさせないセンサーなど、AIを駆使して色々な対策が立てられているそうです。

ひとつ余談ですが・・・
熊本県で昔、やはり一夜にして海苔を食われ被害にあった生産者様の執念の追求により、犯人が「鴨」であることが分かりました。
そして駆除された鴨の肉は、ミネラルを豊富に含んだ海苔を食べたため非常に美味しく、東京のレストランに高値で卸されたそうです・・・ホントに余談でした。

その他の要因としては、

その3.海がきれいすぎる

どういうこと?ですよね。
別に海にゴミをぽいぽい捨てていい、という話では決してありません。
(それは絶対やめましょう!!)
雨が降らないから山からの栄養が回らない、というお話はその1でしました。
もう一つの栄養となっているものが、生活排水です。
生活インフラが整ったことにより、やせた土では食物は育たないように、一見きれいに見えるがやせた栄養のない海からは海苔(だけでなくその他海産物全般)は育ちにくいのです。
海繋がりで、広島の牡蠣も昨今小さくなっているのですが、これも海がきれい過ぎて牡蠣が育たないのが一つの理由と言われています。
なので聞くと抵抗があるのですが、生活排水も若干海に流すことが大事です。
しかし栄養過多になると赤潮の原因になるので、ほどよい塩梅のきれい過ぎず、汚過ぎずが海にとってはちょうどいいようです。

実際に2023年より、瀬戸内海では海の再生のため、これに面する近畿・中国・四国・九州の9府県54箇所の処理施設で、少しでも海に栄養が届くよう処理水の緩和運動が行われています。

そんな現状があり、有明海では生産者様のご尽力虚しく、今までのような上質な味・色艶のよい海苔が少なくなっています。
  
さらに採れないことからこんな悪循環も。

海苔が採れない(水揚げ枚数が少ない)

買付けに海苔屋が殺到する

入札価格が上がる

売価も上がる

ゆえに弊社だけでなく、他メーカーさんも値上げ、もしくは実質値上げ(内容量を減らす)と苦労しております。
店主はいつも「海苔は米、味噌、醤油などの必需品ではなく、あくまで嗜好品にすぎない。過度の値上げは消費離れに拍車がかかるが、この相場ではみんなそうも言っていられない」と嘆いております。

数が必要な大手メーカーは、入札価格が高い安いなど関係なく、弾が無ければ撃てない、とばかりに必死に札を入れますが、海苔屋の仕入れには数千万から億単位のお金がかかります。
仕入の予算を増額しても、通年の半分しか買えていない話はよく聞きます。
中堅大手メーカーですらこの現状。
小さいところは仕入れが厳しく、やむなく廃業となる海苔屋もここ数年で増えています。
(弊社も決して他人事ではないです)

また、有明産限定で海苔を販売しているところは、海の現状が改善しない限り、安定供給と値段、海苔の質の維持などが難しいので、有明産以外でも使えるように交渉したりなど対応に追われていたりします。

私は有明産の薄くて小さな穴のあいた上品な海苔が、時に食べ応えがないと言われようと大好きなので、本当に悲しいしかないです。
このまま日本の伝統食の一つである海苔の衰退を見るのは、老舗海苔屋に生れた者として非常に心苦しいものがあります。

暗いだけではあれなので、少しだけ明るいニュースも。
冒頭でグラフにもありましたが、今年2025年の兵庫県産(瀬戸内産)が去年より少しだけ多く採れました。
また、陸上で海苔の養殖に成功した、などの話も聞こえてきます。
一般に出回るには果たしてどのくらいかかるのか?肝心の味は?など気になるところはたくさんありますが、海苔屋として嬉しくなりました。

海苔は加工して店頭に並んでいるため、実は味や収穫量などが自然にかなり左右されるものだ、と言ってもピンとこない方が大半だと思います。
ですが、日本の古くからある伝統食であり、かつ海の恵みである海苔が実は今このような状況なんだよ、と少しでも現状を知って海苔に興味がわく方が増えてくださればなあ、との思いで書きました。

さて、今日も明日も明後日も、毎日美味しく海苔を食べましょう!